最高のコーチは教えない(吉井 理人著)の書評

最高のコーチは教えない(吉井 理人著)の書評

Contents

はじめに

今回取り上げる著書はプロ野球とメジャーリーグを渡り歩いた現・千葉ロッテマリーンズ吉井理人投手コーチの「最高のコーチは教えない」です。
情報化が進むプロ野球におけるコーチの役割はどのようなものなのでしょうか?

吉井理人氏のプロフィール

吉井氏は1985年ドラフト2位で近鉄に入団するとロッテで引退するまで4球団、メジャーリーグのニューヨーク・メッツにFA移籍するとモントリオール・エクスポスなど3球団を渡り歩きました。
生涯成績は成績はプロ野球通算89勝82敗62セーブ、メジャー通算32勝47敗でした。
投手コーチ歴は北海道日本ハムファイターズで2008-2012年、2016年-2018年の合計7年、福岡ソフトバンクホークスで2015年の1年、千葉ロッテマリーンズで2019年から現職(2021年)の3年で就任通算11年と豊富な実績と経験を積み上げました。
吉井氏の経歴で興味深いのは2014年から2年間筑波大大学院でコーチング理論の研究を始めたことでした。吉井氏は現場での豊富な経験があるにも関わらず、なぜ大学院でコーチング理論を研究することにしたのでしょうか?

筑波大大学院に入学してコーチングを研究

吉井氏は2008年からの日本ハム投手コーチ時代から自身の経験に頼る指導方法に不満を感じていました。
現役時代に投手コーチとたびたび意見の食い違いで衝突していた彼はもっと選手の立場に立った指導を行いたかったのですが、現役を引退してすぐコーチに就任したため指導の勉強をしたことがなくどうすれば選手を正しい方向に導けるのか分からなかったのです。
そこで彼は日本ハムのコーチを辞任したあと大学院でコーチング理論の研究を始めることにしました。研究を続けるうちに彼は気づきました。コーチの仕事は選手に「教える」のではなく「考えさせる」ことだと。

「教えない」コーチング

2016年に日本ハム投手コーチに復帰した吉井氏は大学院で学んだコーチング理論を実践に移していきます。
その理論はわかりやすく体系化されていて実際の現場でも応用が可能でした。
著書に掲載された数ある理論の中で私が感心したのは試合後に出場した複数の選手を集めて「振り返り」をさせることでした。
「振り返り」は試合の分析を選手自身にさせることで思考力や分析力を養わせることが狙いです。
その狙いは見事に当たり練習態度が改善したり不調なときの立て直し方を考える選手が増えていき、投手全体のレベルアップに繋がりました。
その他に技術的な指導を最小限にしつつ選手のメンタルケアを重視するスタイルは旧来の指導法と一線を画するものでした。
コーチになりたくなかったはずの吉井氏はいつしか現代のプロ野球に適応した新たなコーチング理論を身に着け、選手の潜在能力を伸ばす理想的なコーチ像を作り上げたのでした。

この本を読んだ感想

テクノロジーの発展による急速な情報化で最新の投球技術やトレーニング方法が簡単に手に入るようになった現代では、昔からのやり方を上から押し付けるコーチングは選手から支持されないでしょう。
これからの野球指導者もJリーグのような指導者ライセンスの制度を作り、コーチングや心理学など多方面の勉強をして選手の立場に立った指導をしないと時代の流れにうまく対応できないと感じました。

報告する

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。