「日本のママたちに、キラキラ活躍してほしいんです!」
そのクライアント様……Aさんとの出会いのきっかけは、クラウドワークスにあったとある募集。
募集内容は、ママによる観光情報を集めたメディアを作りたいというもの。
Aさんは、「ママの自立を応援するNPO」を立ち上げ、その代表をなさっています。
ばっちりメイクをして茶色の髪をくるくる巻き、SNSのプロフィールはもちろん自分の写真、ガンガンSNSを更新しているキラキラ女子な方です。
ただ、その案件は単価数百円、取材費用込み、交通費支給なし。
「まずはママたちにたくさん書く経験を積んでほしいと思っています!」
確かに経験は積めるかもしれませんが、真面目に書けば書くほど大赤字。自立以前の問題です。
ただ、細かいレギュレーションもなく、最低文字数も少なめ。本数のノルマもありません。
しかも「今は数百円ですが、今後、企業とのコラボ案件もお任せする可能性があります!」
とありました。
正直、企業コラボ案件にはまったく期待していませんでした。美味しい案件はおそらく身内で回すだろうと思っていました。
また、私自身は自分がライター一本で食べていけるレベルではないと自覚していますし、本業ですでに自立できています。
ただ、「ママの自立を応援」という趣旨には共感できましたし、当時はコロナの心配もなかったので、子どもと出かけたついでに、ブログ代わりに書けばいいかと思い、応募。受注しました。
*
何記事か投稿させていただいた後、
「たくさん広告記事案件を獲得したいんです! 日本一のママ向け観光メディアにしたいんです! ライターさんたちが頼りです! 何か要望があればどんどん言ってください!」
と彼女からメッセージが届きました。
要望を、とのことなので、
「広告記事案件を獲得したいのであれば、もう少しライターの記事単価を上げるか、交通費や取材費用を別途支給した方がよろしいのではないでしょうか。質の良い観光系記事を手がけるママライターは何人か知っていますが、この単価ではとても紹介できません」
とコメントと一緒に、広告記事を獲得している複数の類似観光メディアのライティングの相場をまとめたExcelファイルを提出しました。
正直、そのメディアは単価数百円ということもあり、質の低い記事がたくさんありました。
写真が全部公式サイトのものだったり、他人のTwitterやInstagramからの埋め込みばかりだったり、文章からも
「このライターさん、絶対にこの場所に行ったことないよね……」
という記事が散見されました。例えるなら、「観光版Naverまとめ」です。
自分が広告を出す立場なら、まぁ選ばないでしょう。
しかし、
「私はプロなんで相場くらい知っています!
でも私たちはNPO! ママの自立を応援する非営利の活動なんです! ご理解ください!」
とAさんに却下されてしまいました。
※過去の私のクライアント様には、単価1万円以上の記事を発注してくださったNPO様もいらっしゃいます。
最初のうちは、投稿したことをAさんに報告すれば、そのつどクラウドワークスでお支払いしてくださっていました。
しかし、そのうち連絡も支払いも滞るようになりました。
そしてコロナが流行し、緊急事態宣言。
「観光記事はこの時期、出すのが難しい、家でもできる遊びとか、子育てのノウハウ記事みたいなものであれば、数百円でも書きやすいママはたくさんいるのではないか」
と提案もしましたが、
「それでは広告記事のスポンサーを獲得できません!」
と却下されました。
**
私は溜まってた報酬をまとめて請求し、なんとかお支払いただいたのを最後に、しばらくそのメディアのことは放置していました。
きちんと連絡を取り合えて、報酬もすぐに支払ってくださるクライアント様が複数いらっしゃるので、そちらで忙しかったのもあります。
ただ、記事を読むことは好きなので、
「最初はいろいろなライターさんの観光記事でにぎわっていたのに、ずいぶん減ってしまったなぁ」
「この人は定期的にきっちりした記事を書いてるな。これで◯百円はもったいないな」
「これ、推敲されていないまま公開されて1週間経ってるけど、誰も直そうとしていないな。まあ私が指摘する義理はないけど」
と、ときどきそのママ向け観光メディアをウォッチしていました。
***
そんなAさんから、つい先日、数か月ぶりに一斉送信で連絡が来ました。
「お久しぶりです!実は〇月に本を出版することになりました! メディアは皆さんにお任せしっぱなしですみません! またこれからよろしくお願いします!」
そのメッセージを読んで、
「ああ、ママの自立を応援したい、ライターとして自立してほしいと言いながら、本は身内で出しちゃうのかぁ……。
わかっていたけど、当初言っていた「企業案件」も回す気がないんだろうなぁ」
と残念な気持ちになりました。
一体、何のために、ママライターを集めたんだろう。
「数百円で記事を書いてくれる都合のいい人達、広告記事獲得のための道具。あ、でも本は買ってね〜」としか、思っていないんだなぁと。
執筆と並行しながらも、ご自身のメディアのこともきっちり責任をもってフォローする。
せめて事前に「本の出版のお話をいただいたので、◯月までレスポンスが遅くなります。今回は事情があって皆さんにお手伝いいただくのが難しいのですが、いつか皆さんとも一緒に本を作りたいです!」というような一言があればよかったのですが……。
要望をと言われたので、
「ご出版おめでとうございます。ただ、観光メディアのメンバーにも声を掛けてもよかったのではと寂しい気持ちです。
私はそのジャンルには全く興味がないのですが、興味があるママはたくさんいるんじゃないでしょうか。
次回作のご予定があって、所属のママライターに経験を積んで自立してほしいと考えているならご検討ください」
というようなメッセージを送ったところ、「ヒガミ満載でうざい」と返信をいただきました。いっそ清々しいです。
要望があったら言ってといいながら、他人の指摘をヒガミに受け取る方とは、お付き合いが難しいなと感じました。
Aさんが放置している間も、せっせとメディアに観光記事を更新されていたライターさんが不憫だっただけなのですが……。
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そのメディアは、すでに離れていってしまったライターさんがほとんどです。
立ち上げてから結構経っていますが、未だに広告記事案件は獲得しておられないようです。
(記事の途中にも意図しない位置にガンガンとバナー広告が入り、かなり読みづらいです。
シェアするのもはばかられます。それが私がそのメディアから離れた理由のひとつでもあります)
せめて残っているライターさんのフォローは、きっちりしてあげてほしいと願うばかりです。
世の中には、素晴らしいNPOがたくさんあります。
私もライティングの仕事関係なく、個人的に継続で寄付しているNPOがいくつかあります。
ただ、NPOを盾に激安で記事を書かせようとするクライアントにはくれぐれもご注意ください。
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